奥歯がないと誤嚥しやすい?噛み合わせと誤嚥性肺炎の意外な関係

「最近、食事中によくむせるようになった」
「お茶を飲んだときに咳き込むことが増えた」
「奥歯が抜けたままだけれど、特に困っていないからそのままにしている」
このようなことはありませんか?
年齢を重ねると「むせるのは年齢のせい」と思われがちですが、実は奥歯の噛み合わせが失われていることが、飲み込みに影響している場合があります。
特に高齢の方では、食べ物や唾液などが誤って気管へ入ってしまう「誤嚥(ごえん)」が、誤嚥性肺炎につながることがあります。
そして誤嚥を防ぐためには、喉だけではなく、歯や噛み合わせ、舌、口腔内の清潔さまで含めて考えることが重要です。
今回は、奥歯と飲み込みの関係、誤嚥性肺炎を予防するために歯科医院でできることについて詳しく解説します。
「誤嚥」とは?食べ物が気管に入ってしまう状態
私たちは毎日何気なく食事をしていますが、「飲み込む」という動作は、実はいくつもの器官が連携して行われる複雑な動きです。
通常、食べ物や飲み物は口から喉を通り、食道へ送られます。
一方、呼吸をするときの空気は気管を通って肺へ向かいます。
この2つの通り道は喉の付近で非常に近くにあるため、飲み込む瞬間には、食べ物が気管へ入らないように体が瞬時に調整しています。
ところが加齢や筋力低下、病気などによって飲み込む機能が低下すると、食べ物や飲み物、唾液などが誤って気管へ入ってしまうことがあります。
これが**「誤嚥」**です。
誤嚥すると「ゴホッ、ゴホッ」と咳き込むことがあります。これは、気管に入った異物を外へ出そうとする体の防御反応です。
しかし高齢になると、この咳をする力そのものが低下する場合があります。
そのため、誤嚥していても強くむせない「不顕性誤嚥(ふけんせいごえん)」が起こることもあります。
食事の際、奥歯には食べ物を細かく噛み砕くという大切な役割があります。
しかし、それだけではありません。
飲み込むときには、上下の歯を噛み合わせて下顎を安定させることも重要です。
実際に、上下の奥歯が当たらないようにして「ゴクン」と唾液を飲み込んでみてください。
「むせていないから大丈夫」とは限らない点にも注意が必要です。
奥歯がないとなぜ飲み込みに影響するの?
では、なぜ「奥歯」と「誤嚥」が関係するのでしょうか。
普段よりも少し飲み込みにくかったり、口や顎の周りに余計な力が入ったりするのを感じる方もいるのではないでしょうか。
飲み込む際には、
奥歯を噛み合わせる
↓
下顎を安定させる
↓
舌を上顎へ押し付ける
↓
食べ物を喉の奥へ送り込む
という一連の動きが行われます。
つまり奥歯は、単に「食べ物を噛むための歯」ではなく、飲み込みを行う際に口や顎を安定させる支えとしても機能しているのです。
奥歯を失い、左右でしっかり噛めない状態になると、この支えが不足してしまいます。
その結果、食べ物を十分に細かくできないことに加えて、飲み込む動作そのものにも影響する可能性があります。
奥歯の噛み合わせと誤嚥性肺炎の関係

高齢者にとって特に注意したいのが**「誤嚥性肺炎」**です。
誤嚥性肺炎とは、食べ物や飲み物、唾液などと一緒に口の中の細菌が気管から肺へ入り込むことによって起こる肺炎です。
ここで注目したいのが、「奥歯の噛み合わせ」との関係です。
香川県歯科医師会が75歳以上を対象として行った調査では、左右の奥歯の噛み合わせがない人は、左右とも自分の歯で噛める人と比較して、誤嚥性肺炎のリスクが約4倍高くなるというデータが報告されています。
また、歯科健診を受けていない人は、受けている人と比較して、誤嚥性肺炎になるリスクが約2倍高かったことも報告されています。
※令和4年度「香川県歯の健康と医療費に関する実態調査報告書」より
もちろん、誤嚥性肺炎には全身状態や嚥下機能、基礎疾患などさまざまな要因が関係するため、「奥歯がない=必ず誤嚥性肺炎になる」というわけではありません。
しかし、奥歯の噛み合わせを保つことや、定期的に歯科医院でお口の状態を確認することが重要であると考えるきっかけになるデータです。
誤嚥性肺炎は「口の中の細菌」も重要です

誤嚥性肺炎を考えるとき、「誤嚥をしないこと」だけに注目しがちですが、もう一つ非常に大切なのが口腔内を清潔に保つことです。
口の中には非常に多くの細菌が存在しています。
歯磨きが十分にできていなかったり、歯周病が進行していたり、入れ歯に汚れが付着していたりすると、口腔内の細菌数が増えてしまいます。
その状態で唾液などを誤嚥すると、細菌も一緒に肺へ入り込んでしまう可能性があります。
つまり誤嚥性肺炎の予防では、
「誤嚥しにくい口の機能を維持すること」
そして、
「たとえ誤嚥してしまったとしても、肺へ入り込む細菌をできるだけ減らしておくこと」
という両方の視点が重要になります。
そのため、毎日の歯磨きだけでなく、歯科医院で定期的にクリーニングや歯周病のチェックを受けることも大切です。
奥歯を失ったまま放置するのはおすすめできません
「奥歯だから見えないし、そのままでも大丈夫」
そう考えて、抜けた奥歯をそのままにしている方もいらっしゃいます。
特に「反対側では噛めているから困っていない」という場合、治療を急ぐ必要性を感じにくいかもしれません。
しかし奥歯には、食べ物を噛み砕くだけでなく、噛み合わせを支え、顎の位置を安定させる役割があります。
奥歯を失った状態を長期間放置すると、残っている歯に負担が集中したり、周囲の歯が移動したり、噛み合わせのバランスが変化したりすることがあります。
さらに、十分に噛めないことで食べ物が大きなままになりやすく、飲み込みにくさにつながる可能性もあります。
「痛くないから問題ない」のではなく、これから先も食事を楽しみ、安全に飲み込むために奥歯をどう補うかという視点で考えることが大切です。
奥歯を失った場合は入れ歯やインプラントなどで「噛める状態」を取り戻す

奥歯を失った場合には、お口の状態に応じていくつかの治療方法があります。
代表的な方法としては、入れ歯、ブリッジ、インプラントなどがあります。
どの治療方法が適しているかは、失った歯の本数や位置、残っている歯の状態、顎の骨の量、全身状態などによって異なります。
高齢だからといって、「もう歯を入れなくてもいい」というわけではありません。
むしろ年齢を重ねてからこそ、しっかり噛める環境を維持することが、食事や飲み込みを支えるうえで重要になります。
現在入れ歯を使用している方についても同様です。
「入れ歯を入れているから大丈夫」ではなく、きちんと噛めているかどうかが重要です。
入れ歯は長期間使用していると、歯ぐきや顎の骨の変化によって少しずつ合わなくなることがあります。
「以前より噛みにくい」
「入れ歯が動く」
「食事中に外れそうになる」
「痛い場所がある」
といった症状があれば、一度歯科医院で確認してもらいましょう。
「むせる」「飲み込みにくい」はお口の機能低下のサインかも

年齢を重ねると、歯だけでなく、舌や唇、頬、喉などの筋力も少しずつ低下していきます。
こうした口腔機能の低下は、最初は小さな変化として現れることがあります。
例えば、
- 食事中にむせることが増えた
- お茶や水で咳き込む
- 硬いものが食べにくくなった
- 食事に以前より時間がかかる
- 食べ物が口の中に残りやすい
- 滑舌が悪くなったように感じる
- 口が乾きやすい
- 食べこぼしが増えた
などです。
「年齢のせいだから仕方がない」と放置せず、こうした小さな変化に早く気付くことが大切です。
歯科医院では、歯や歯ぐきだけではなく、噛む力や舌の動きなど、お口の機能について確認できる場合があります。
必要に応じて適切な対応を行い、できるだけ長く「食べる」「話す」「飲み込む」という機能を維持していきましょう。
誤嚥予防のために毎日できること
誤嚥や誤嚥性肺炎の予防を考えるうえで、毎日の生活の中でできることもあります。
まず大切なのは、しっかり噛める口の環境をつくることです。
歯を失っている場合はそのままにせず、必要に応じて入れ歯やインプラントなどで奥歯の支えを補います。
次に重要なのが口腔ケアです。
歯ブラシだけでは取り切れない歯と歯の間の汚れには、歯間ブラシやデンタルフロスなども活用しましょう。
入れ歯を使用している場合は、入れ歯そのものにも細菌や食べかすが付着します。毎日取り外して丁寧に清掃することが大切です。
さらに、舌や口の周りの筋肉を動かすことも意識しましょう。
例えば、**「クチュクチュうがい」や「ガラガラうがい」**も手軽に取り入れられる方法の一つです。
クチュクチュうがいでは頬や唇など口の周りを動かし、ガラガラうがいでは喉の奥を意識して動かします。
無理のない範囲で毎日の習慣にしてみましょう。
※水分でむせやすい方や、すでに嚥下機能の低下を指摘されている方は、無理にうがいを行わず、医師・歯科医師などにご相談ください。
定期的な歯科健診は「歯を守るため」だけではありません

歯科医院へ行く目的というと、「虫歯を治す」「歯周病を予防する」というイメージが強いかもしれません。
しかし高齢期の歯科健診には、もう一つ大切な意味があります。
それは、「食べるための口」「飲み込むための口」を維持することです。
定期健診では、虫歯や歯周病だけでなく、残っている歯の状態、奥歯の噛み合わせ、入れ歯の適合状態などを確認できます。
早い段階で小さな変化に気付くことができれば、将来的な大きなトラブルを防げる可能性があります。
「痛くなったら歯医者へ行く」のではなく、
「これからも自分の口で安全に食事を楽しむために歯医者へ行く」
という考え方も大切です。
奥歯を守ることは、これからの「食べる力」を守ること

奥歯は普段あまり目立たないため、前歯と比べるとその重要性を意識する機会は少ないかもしれません。
しかし奥歯には、食べ物を細かく噛み砕き、噛み合わせを支え、飲み込みを助けるという重要な役割があります。
特に高齢になると、歯の状態だけでなく、舌や喉の筋力、全身状態などさまざまな変化が重なり、誤嚥のリスクが高くなることがあります。
だからこそ、
「奥歯をできるだけ失わない」
「失った場合には噛める状態を補う」
「お口を清潔に保つ」
「定期的に歯科健診を受ける」
ということが大切です。
最近むせることが増えた方、奥歯がないままになっている方、入れ歯が合わなくなってきたと感じる方は、一度お口の状態を確認してみてはいかがでしょうか。
大西歯科医院では、歯そのものだけではなく、これからもご自身のお口でしっかり噛み、食事を楽しめることを大切に診療を行っています。
奥歯や入れ歯、噛み合わせについて気になることがありましたら、お気軽にご相談ください。
ワンポイントアドバイス
「クチュクチュうがい」でお口の中を清潔に。
「ガラガラうがい」で喉の奥も動かして、毎日の誤嚥予防を意識しましょう。
このブログの内容は、生活情報誌 月刊マルータ 8月号にも掲載しております。ぜひ、ご覧ください。



