こんにちは。香川県丸亀市にある大西歯科医院です。
親知らずの抜歯とインプラントは、それぞれ異なる治療方法で一見関係ないように思えますが、場合によっては関連する可能性があります。
親知らずが生えている方がインプラント治療を受ける際、口腔状態や親知らずの状態によって、インプラント治療に影響を与える場合があります。その様な時は、親知らずの抜歯をしなければなりません。
また、近年では親知らずをインプラントの代わりに使用するケースもあります。
そこでこの記事では、親知らずとインプラントの関係についてインプラント治療を専門的に行う香川県丸亀市の大西歯科医院、院長の大西が詳しく解説します。
親知らずの抱える問題
親知らず(智歯)は、永久歯の中で最も最後に生えてくる第3大臼歯です。多くの場合、10代後半から20代にかけて萌出しますが、親知らずはもともと抜歯する必要のない歯です。
食の変化などによって現代人は昔の人と比べると顎が退化し小さくなっています。歯が生える本数に大きな違いはないため、永久歯のなかでも最後に生えてくる親知らずが生えるスペースがなくなり、斜め方向に生えたり別の場所から生えたりしてしまうのです。
顎の退化と親知らずの位置異常
その背景にあるのは、現代人の「食生活の変化」です。かつての人類は、肉や根菜など硬い食べ物を多く摂取していたため、顎の骨が発達し、歯列のスペースにもゆとりがありました。
しかし、近代以降は柔らかい加工食品や精製された炭水化物の摂取が増え、顎の骨が小さくなる傾向が見られるようになりました。この「顎の退化」は、歯の本数には影響を与えません。
そのため、永久歯は従来通り28~32本生えてきますが、顎が小さくなったことで最後に生える親知らずの居場所がなくなり、正常に生えることが難しくなっているのです。
結果として、親知らずは斜めに傾いて生えてきたり(水平埋伏)、横向きに隣の歯に食い込むような形で生えてきたり、まれに本来の位置から離れた方向に向かって異常萌出するケースも見られます。
これにより、歯並びの乱れや、周囲の歯への悪影響が生じるリスクが高まるのです。
親知らずの種類とそのリスク
親知らずにはいくつかのタイプがありますが、特に問題となるのが以下の2つです。
半埋伏歯(はんまいふくし)
歯冠の一部だけが歯ぐきから顔を出している状態です。一部が見えていることでブラッシングが難しく、食べかすや細菌が溜まりやすいため、炎症(智歯周囲炎)や虫歯の温床となります。
埋伏歯(まいふくし)
親知らずが完全に歯ぐきや顎の骨の中に埋まったまま生えてこない状態を指します。外からは見えないため気づかれにくいのですが、実は内部で嚢胞(のうほう)を形成したり、隣の歯を圧迫したり、骨を溶かす原因となることもあります。
※埋伏歯はレントゲンやCT検査によって発見されることが多く、インプラント治療前の精密診査の中で初めて存在に気づく患者様も少なくありません。
親知らずが引き起こすトラブル
親知らずがまっすぐ正常な方向に生えてこない場合、さまざまな口腔内のトラブルの引き金となります。現代人の多くは顎のスペースが狭いため、親知らずが真っ直ぐに生えきらないケースが非常に多く、歯科治療において大きな課題となっているのが現状です。
奥に生えて磨きにくい=虫歯・歯周病の温床に
親知らずは、上下の歯列の中でも最も奥に位置する歯です。位置的にブラッシングが非常に難しく、たとえまっすぐ生えていたとしても、磨き残しが生じやすく汚れが溜まりやすい部位といえます。
そのうえ、斜めや横向きに生えてしまった場合には、歯ブラシの毛先が届きにくくなるため、虫歯や歯周病のリスクが格段に上昇します。実際、多くの親知らずが虫歯や炎症を起こし、繰り返し痛みや腫れを引き起こす「問題歯」となっているケースが多数報告されています。
隣の歯まで蝕む“連鎖反応”
特に注意すべきなのは、親知らずのトラブルが周囲の健康な歯にも影響を及ぼす可能性があるという点です。
例えば、虫歯や歯周病が親知らずに発生した場合、すぐ隣にある第二大臼歯(通常の奥歯)にまで感染が広がりやすくなります。これは、歯と歯の隙間(隣接面)が接近しており、清掃が不十分になることで細菌が広がりやすいためです。
その結果、健康な歯を巻き添えにして抜歯が必要になるケースも少なくありません。特にインプラント治療を控えている場合、このような感染は治療の妨げになり、予定していた治療計画に大きな影響を与える可能性があります。
歯並びの乱れ・噛み合わせの悪化
さらに問題となるのが、横向きや斜め方向に生えてくる親知らずが、周囲の歯を物理的に押してしまうという現象です。
歯は本来、顎の骨の中で一定のスペースを保ちながら並んでいますが、そこに斜めに生えた親知らずが無理に割り込もうとすると、手前の歯が前方へ押され、歯列全体のバランスが崩れてしまうのです。
このような圧迫によって起こる歯の移動や傾きは、前歯の重なりや、咬み合わせのズレを引き起こす原因にもなります。場合によっては、矯正治療が必要になるほどの歯並びの乱れを招くこともあり、インプラントを埋入した後の歯列の安定性にも悪影響を与えかねません。
インプラント治療との関連
インプラント治療は、歯ぐきや顎の骨の健康状態が成功のカギを握っています。そのため、虫歯や歯周病、噛み合わせの乱れといった親知らず由来のトラブルがあると、インプラントの埋入位置の精度や長期的な定着に支障をきたすことになります。
また、親知らずの炎症が慢性化している場合、周囲の骨にまで感染が広がり、骨の吸収や破壊が起こることもあります。このような状態では、インプラントを埋入するための骨量が不足してしまい、骨造成(骨の再建)という追加手術が必要になる可能性もあるのです。
なぜインプラント治療で親知らずを抜くのか?
インプラント治療は、天然の歯のように噛める状態を人工的に再現する、非常に精密で繊細な歯科治療のひとつです。その成功のカギは、インプラントを埋入する「周囲の環境」がどれだけ健康かに大きく左右されます。
つまり、たとえ最新のインプラント体を使用しても、周囲の歯や骨、歯茎が不健康であれば、長期的な安定は見込めません。
そのような中で、特に厄介な存在とされているのが「親知らず」です。一見関係ないように思えるかもしれませんが、実はインプラント治療を行う際には、親知らずの存在が大きな障害となることがあるのです。
虫歯や歯周病の温床になる親知らず
親知らずはお口の最も奥に生える歯であり、その位置ゆえに日々のブラッシングが非常に難しく、プラーク(歯垢)や食べカスが溜まりやすい場所でもあります。その結果、親知らずは虫歯や歯周病になりやすく、放置すると炎症を繰り返したり、周囲の健康な歯や骨にまで悪影響を及ぼしたりすることがあります。
インプラントを埋入する予定の部位の近くに親知らずが存在している場合、その親知らずが虫歯や歯周病にかかっていれば、細菌感染のリスクが高まり、インプラントがうまく定着しなかったり、早期に脱落する原因となる可能性があります。
隣接するインプラントに物理的な悪影響を与える
親知らずが斜めや横向きに生えている場合には、インプラント治療そのものに物理的な干渉を及ぼすこともあります。
親知らずが第二大臼歯を押し出す力を加えている場合、その手前にインプラントを埋め込んだとしても、数年後には噛み合わせがズレたり、インプラントに不自然な力がかかって不安定になってしまったりするケースが見られます。
また、インプラントの埋入方向や角度にも制限が生じ、治療の選択肢が狭まる要因にもなります。
このような理由から、治療計画の段階で、将来的に悪影響を及ぼすと判断される親知らずは、早期に抜歯しておくことが推奨されるのです。
インプラントの長期安定には「口腔内の健康」が欠かせない
インプラントを長持ちさせるためには、埋入後も良好な口腔内環境を維持することが絶対条件です。特に歯周病はインプラント周囲炎を引き起こし、顎の骨を溶かしてしまうため、インプラントの脱落や再治療を招く原因になります。
親知らずがあることで炎症や細菌感染のリスクが高まるような状態は、インプラントにとっては非常に危険です。たとえ現在は痛みや症状が出ていなくても、将来的なトラブルの火種になりかねないため、歯科医師は予防的な観点から、親知らずの抜歯を提案することが多いのです。
また、親知らずによって噛み合わせや歯並びが乱れている場合、インプラントの咬合(かみ合わせ)設計にも悪影響を与えるため、咬合のバランスを考慮して親知らずを除去することも少なくありません。
親知らずの抜歯とインプラント手術のタイミング
インプラント治療を検討するうえで、親知らずの存在は無視できない重要な要素です。とくに、親知らずが埋まっている位置やその周囲にインプラントを埋め込む場合、抜歯のタイミングとインプラント手術の計画は密接に関係しており、治療全体の成否を左右するポイントにもなります。
基本的な流れ:抜歯から2~3ヶ月待つのが一般的
通常、親知らずを抜歯した後は、その部分の歯茎や顎の骨がしっかりと回復するのを待ってから、インプラント治療へと進みます。
この待機期間は一般的に2〜3ヶ月程度とされており、患者さんの治癒力や親知らずがあった部位の骨の状態によって若干の個人差があります。
この期間をしっかり確保することで、インプラント体が埋入される部分の骨質や歯肉の状態が安定し、インプラントがより長期的に定着しやすくなるのです。
治療の土台がしっかりしていなければ、せっかくのインプラントも不安定になり、脱落や周囲の炎症などのトラブルを招く恐れがあります。
特に、親知らずを抜いたあとは一時的に骨の量が減少することもあるため、そのリカバリーを待ってからインプラントを行うことは、将来のリスクを抑えるうえでも非常に理にかなったステップと言えるでしょう。
抜歯と同時にインプラントを埋め込む「抜歯即時埋入法」
近年の歯科治療は進化を遂げており、「抜歯即時埋入法」という新しい治療手法が登場しています。これはその名の通り、親知らずを抜歯したその場でインプラントを同時に埋入する方法であり、従来のように数ヶ月待つ必要がありません。
この方法の最大のメリットは、治療期間の短縮と、外科的な処置が一度で済むことです。患者さんにとっても通院回数や身体への負担を減らすことができるため、注目されている治療法のひとつです。
ただし、すべての患者さんにこの方法が適用できるわけではありません。抜歯部位の骨の厚みや高さ、感染の有無、歯肉の状態、全身の健康状態など、さまざまな要素を踏まえ、歯科医師が慎重に判断する必要があります。
親知らずの周囲に炎症や膿がたまっているような状態では即時埋入は難しくなりますし、骨が非常に薄い場合には、事前に骨造成(骨を増やす処置)が必要になることもあります。
タイミングを見極めるには専門的な診断が不可欠
このように、親知らずの抜歯とインプラント手術のタイミングには複数の選択肢があり、それぞれにメリットと注意点があります。重要なのは、患者さんごとの口腔内の状態を正確に把握し、最もリスクが少なく、長期的に安定する方法を選ぶことです。
そのためにも、インプラント治療を検討する際には、親知らずの位置や状態を精密に診断することが第一歩となります。歯科用CTなどの画像診断を活用し、骨の質や量、神経との距離などを詳細に確認したうえで、最適な治療スケジュールを立てていきます。
まとめ:親知らずの抜歯とインプラントは関係ある!
インプラントをするとき、親知らずの有無・状態(生えている場所や方向・虫歯や歯周病ではないか)によって治療内容が変わります。親知らずに異常がなければそのままですが、異常がある場合には抜歯をします。
親知らずは抜いて終わり!と思われている方が多くいらっしゃいますが、「口腔環境・条件」が合えばインプラントの代わりの治療の選択肢として『歯牙移植』を考えてみるのも良いのではないでしょうか。
どの治療方法が患者さまに適しているかは、お口の中を実際に拝見してみないと正確にはわかりません。気になる場合にはぜひ一度ご相談ください。